グラム陰性菌
グラム陰性菌
グラム陰性菌については、主に、
- グラム陰性通性嫌気性桿菌
- グラム陰性好気性桿菌
- グラム陰性好気性球菌
- らせん菌
に分けられるようです。
今回は特にグラム陰性好気性球菌(グラム陰性球菌はほぼ好気性)を扱います。
グラム陰性通性嫌気性桿菌
グラム陰性通性嫌気性桿菌は以下に分けられます。
・腸内細菌科
- エシェリキア属
- シゲラ属
- サルモネラ属
- エルシニア属
- クレブシレア属
・ビブリオ科
- ビブリオ属
・その他
- ヘモフィリス属
ではそれぞれについて見ていきましょう。
腸内細菌科
腸内に生息する細菌が多いです。
腸内に存在するだけでは病気にはなりませんが、何らかのメカニズムで細胞に侵入して悪さをします。
エシェリキア属ー大腸菌
エシェリキア属といえば大腸菌です。「O157」なんて有名かと思います。
大腸菌にはたくさんの種類があります。
- O抗原を持つもの(171種類)
- H抗原を持つもの(56種類)
- K抗原を持つもの(80種類)
O157とは、O抗原の番号157ということです。
通常の大腸菌そのものは腸管内常在菌ですが、腸管病原性大腸菌というものも存在します。(イイモンの大腸菌とワルモノの大腸菌があって、病気を起こすのはワルモノ)
病気を引き起こす腸管病原性大腸菌は以下のものです。
- 腸管病原性大腸菌(狭義)(小児の急性胃腸炎の原因)
- 腸管組織侵入性大腸菌(途上国に多く赤痢に似た症状)
- 毒素原性大腸菌(コレラ毒素に似た症状・途上国の下痢症)
- 腸管出血性大腸菌(O157が有名。日本など先進国でも繰り返し大規模な流行を起こしている)
- 腸管凝集付着性大腸菌
シゲラ属ー赤痢菌
シゲラ属と言えば、赤痢菌です。赤痢菌の発見には日本人の志賀潔が有名ですね。
細菌性の赤痢を引き起こします。(アメーバ赤痢は原虫による感染症)
衛生環境の悪い途上国に多いです。
サルモネラ属ーチフス
サルモネラ属による菌は以下のものがあります。
- チフス菌
- パラチフス菌
- ゲルトネル菌
- ネズミチフス菌
これらにより以下の感染症が引き起こされます。
腸チフス・パラチフス(途上国に流行。バラ疹・脾腫・除脈の三大徴候)
サルモネラ症(加熱されていない肉や卵による食中毒)
エルシニア属ーペスト
ペストの自然宿主はげっ歯類です。
ネズミを吸血したノミから人間に感染します。
黒死病と言われ14世紀のヨーロッパに壊滅的被害を与えました。
ペストにも
- 腺ペスト
- 肺血症ペスト
- 肺ペスト(死亡率が高い)
とあります。
その他の腸内細菌
- クラブシエラ属菌
- エンテロバクター属
- セラチア属
などがあります。
ビブリオ科ービブリオ属
ビブリオ属としてはコレラ菌が有名です。
コレラは今も世界的に大流行をしています。
コレラは下痢が出まくるので、トイレにいけないくらいひどく出るので、
寝ながら便を垂れ流しできる「コレラベッド」などもあります。
その他の科ーヘモフィルス属ーインフルエンザ菌
インフルエンザは、インフルエンザウイルスで引き起こされますが、昔は、「インフルエンザ菌」が引き起こすとされていたため、このような名前になりました。
気道の常在菌ですが、高齢者に病気を引き起こします。
以上「グラム陰性通性嫌気性桿菌」でした。
グラム陰性好気性桿菌
グラム陰性好気性桿菌は以下のものがあります。
- シュードモナス属
- ボルデテラ属
- ブルセラ属
- フランシセラ属
- レジオネラ属
- コクシエラ属
ではそれぞれについて見ていきましょう。
シュードモナス属ー緑膿菌
緑膿菌が有名です。
鞭毛をもちます。
包帯を緑色に染める膿を産生します。
通常は病気を起こしません(日和見感染で有名)
院内感染を起こし、多剤耐性菌になってしまう菌としても有名です。(多剤耐性緑膿菌)
ボルデテラ属ー百日咳菌
百日咳菌が有名です。
百日咳毒素が病気を引き起こします。
百日咳は1歳未満の子供で好発します。(死亡例もあります)
日本でも2007年には香川大学で流行したこともあります。
ブルセラ属
ブルセラ属の近は人獣共通感染症を引き起こします。(ヒツジ・ヤギ・ウシ・ブタ)
獣医師や、酪農に従事する人に多いです。
軽症の場合が多いですが、慢性化することもあります。
フランシセラ属ー野兎病菌
野兎病菌が有名です。
ウサギやげっ歯類が自然宿主です。(人獣共通感染症)
日本では野生のウサギが減ったことで、流行はなくなってきました。
過去には、野生のウサギやヤギををとって食べていた地域(東北地方など)で流行していました。
レジオネラ属
「レジオネラニューモフィリア」でレジオネラ感染症が引き起こされます。
至適温度が20-50度で増えます。(温泉やプールで見られます。)
ポンティアック病やレジオネラ肺炎を引き起こします。
1976年のフィラデルフィアで大流行しました。
コクシエラ属
Q熱・Q feverという病気を引き起こします。
節足動物・鳥類・げっ歯類・家畜やペットに感染しますが、ほとんどが無徴候です。
動物の胎盤で増殖し、流産・死産を引き起こしてしまいます。
以上、グラム陰性好気性桿菌でした!
グラム陰性好気性球菌
グラム陰性好気性球菌は以下の分類を受けます。
- ナイセリア属菌
- モラキセラ属菌
- アシネトバクター属
以上が有名です。それぞれについて見ていきましょう。
ナイセリア属菌
ナイセリア属菌には
- 淋病を引き起こす淋菌
- 髄膜炎を起こす髄膜炎菌
があります。
淋菌
ソラマメ状、腎臓の形をした菌です。
淋病を引き起こします。
淋病は、以下のような炎症を引き起こします。
- 男性は尿道炎が多い。尿道から上向性に感染が拡大し、精巣炎・精巣上体炎・前立腺炎。
- 女性は子宮頸管炎が多い。上向性に感染が拡大すると、子宮内膜炎。
- 男女ともに、オーラルセックスによる咽頭炎も見られる。
淋病は性行為感染症ですが、最も患者数の多い性感染症です。
日本でも増加傾向にあります。男性の方が自覚症状が分かりやすいです。
髄膜炎菌
線毛があります。
侵襲性髄膜炎菌感染症を引き起こします。
病態としては、
- 菌血症
- 髄膜炎を伴わない敗血症
- 髄膜船
- 髄膜脳炎
4病態があります。
アフリカのサハラ以南で流行しています。
モラキセラ属菌
モラキセラ・カタラリスが代表的な菌です。
線毛があります。
鼻腔気道の常在菌です。
アシネトバクター属
自然環境中や、ヒトの皮膚から検知されます。
人工呼吸器を装着している患者さんの肺炎を引き起こします。(「医療関連感染」)
医療関連感染とは、「医療機関において患者が、原疾患とは別に罹患した感染」です。アシネトバクターは多剤耐性菌にもなるので注意が必要です。
らせん菌の分類
らせん菌は以下の分類がなされます。
まず、スピロヘータ門とプロテオバクテリア門の二つに分類されます。
スピロヘータ門は今はほとんどいません。
そして、それぞれの門について、
・スピロヘータ門
- トリポネーマ属
- ボレリア属
- レプトスピラ属
- スピロヘータ属
・プロテオバクテリア門
- カンピロバクター属
- ヘリコバクター属
- ズピリルム属
の属に分けられます。では、それぞれについて、見ていきましょう。
スピロヘータ
細長くコルクスクリュー状です。
鞭毛があり、運動性もあります。
トリポネーマ属~梅毒トリポネーマ
トリポネーマ属は培養が難しいです。
機械的刺激に弱いからです。
そのため、直接感染による感染がメインです。
梅毒トリポネーマは梅毒の原因菌です。
直接感染がメインで、
- 性行為(性感染症)
- 経胎盤感染
で感染が広がります。
日本では、梅毒の人数が年々増えています。
時間とともにどんどん病態はひどくなります。
ボレリア属
げっ歯類が保菌宿主となります。
シラミやダニが、げっ歯類からヒトへと
菌を移します。
ライム病ボレリア
しか・ねずみが保菌宿主で
マダニから感染します。
日本でも、北海道・長野でよく見られます。
「ライム病」を引き起こします。
回帰熱ボレリア
野生のダニやシラミで媒介されます。
熱帯な不衛生な環境で多く見られます。
回帰熱を引き起こします。
5-7日おきに高熱(40度)と平熱を繰り返すため、
回帰熱と言われています。
レプトスピラ属
げっ歯類、家畜(ウシ・ウマ・ブタ)、イヌネコが保菌動物になります。
熱帯の発展途上国でよく見られます。
軽症ではありますが、日本でも秋に流行しています。(20人程度)
劇症型はワイル病とよばれ、致死性(5-30%)です。
プロテオバクテリア
カンピロバクター属
らせん状ですが、カモメの翼のような見た目です。
ほ乳類と鳥類の腸管に生息します。(人獣共通感染症)
噴口感染や経口感染で広まります。
「カンピロバクタージェニ」という細菌が、カンピロバクター腸炎を引き起こします。
「夏場に多い細菌性食中毒」の原因です。(食中毒については:微生物の定義/細菌とウイルスの違い/腐るとは?季節性食中毒? - 医学部生の基礎医学)
ヘリコバクター属
「ヘリコバクターピロリ」「ピロリ菌」はめちゃくちゃ有名な菌ではないでしょうか。
- MALTリンパ腫
- 胃癌
- 胃潰瘍
- 萎縮性胃炎
- 慢性胃炎
など、いろいろな胃の病気を引き起こします。